【試読み】ほしのたねvol.4掲載

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「!」 同期の吉本に言われて、僕ははっと目を覚ました。 「お前何寝てんの? もう月曜一限ゼミ終わりだぜ?」  吉本はけらけらと笑いながら言う。 「ま、お前日曜おやっさんの手伝いしてるから、月曜が辛くなるっていうのも分かるけどな。折角柳沢先生の授業なんだから、起きてろよ」  眠たい眼をこすりながら、 「うぅ……」  と言った僕の頭を、吉本がぼろぼろの本で叩いた。 「おーきーろー、これ参考文献だって柳沢先生が言ってたから、古本屋で買っといた」 「……古本屋? 図書館に無かったのかよ?」  僕は訝しげに聞いた。柳沢先生は結構厳しい教授だから、毎週参考文献を読まなければならない。でも、今回のは変わっている。真面目な吉本が古本屋に行くのは分かるが、こんなぼろぼろな本……茶褐色の表紙は色あせているし、ページも所々破れかけている。柳沢先生、こんな本普通の学生なら読みませんよ。 「んー、でも十円だっていうし、買っちゃったけど……まあ読まねえよな、普通は。今日の授業でも、使ったの一ページだけで、俺しか持ってきてなかったから、これからは使わないっぽいけど、お前あれだろ、こういうの好きだろ? なんかじっさんくせえんだよな、基祈(もとき)は」 「最後の一言いらねえよ」  はいはい、とでも言うように、吉本はその本を僕の前に差し出し、手を振りながら去っていった。 「松近ー」  柳沢先生が僕を呼ぶ。あと一年で定年退職だから、大事に聞こう。それが人文学科の暗黙の了解となっていた。 「参考文献、ちゃんと読んどけよー」 「了解ですー」  本を見たとき、なんだ、これは、と思った。『東北地方の隠れキリシタン』。  隠れキリシタン? たしかに僕はクリスチャンだ。でも、隠れキリシタンについては、そんなによくは知らない。遠藤周作の『沈黙』という小説で読んだくらいだ。
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