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「!」
同期の吉本に言われて、僕ははっと目を覚ました。
「お前何寝てんの? もう月曜一限ゼミ終わりだぜ?」
吉本はけらけらと笑いながら言う。
「ま、お前日曜おやっさんの手伝いしてるから、月曜が辛くなるっていうのも分かるけどな。折角柳沢先生の授業なんだから、起きてろよ」
眠たい眼をこすりながら、
「うぅ……」
と言った僕の頭を、吉本がぼろぼろの本で叩いた。
「おーきーろー、これ参考文献だって柳沢先生が言ってたから、古本屋で買っといた」
「……古本屋? 図書館に無かったのかよ?」
僕は訝しげに聞いた。柳沢先生は結構厳しい教授だから、毎週参考文献を読まなければならない。でも、今回のは変わっている。真面目な吉本が古本屋に行くのは分かるが、こんなぼろぼろな本……茶褐色の表紙は色あせているし、ページも所々破れかけている。柳沢先生、こんな本普通の学生なら読みませんよ。
「んー、でも十円だっていうし、買っちゃったけど……まあ読まねえよな、普通は。今日の授業でも、使ったの一ページだけで、俺しか持ってきてなかったから、これからは使わないっぽいけど、お前あれだろ、こういうの好きだろ? なんかじっさんくせえんだよな、基祈(もとき)は」
「最後の一言いらねえよ」
はいはい、とでも言うように、吉本はその本を僕の前に差し出し、手を振りながら去っていった。
「松近ー」
柳沢先生が僕を呼ぶ。あと一年で定年退職だから、大事に聞こう。それが人文学科の暗黙の了解となっていた。
「参考文献、ちゃんと読んどけよー」
「了解ですー」
本を見たとき、なんだ、これは、と思った。『東北地方の隠れキリシタン』。
隠れキリシタン? たしかに僕はクリスチャンだ。でも、隠れキリシタンについては、そんなによくは知らない。遠藤周作の『沈黙』という小説で読んだくらいだ。
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