1580人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「こんな足でここまで来たくらいだから、切羽詰まってたのはわかります。
けど……社会人なら公私はわきまえるべきですよ。
宮坂さんを頼って会社までくるのは、やりすぎです」
低い彼女の声は、存外によく通った。
だから目の前にいる美月にはもちろん、少し離れた浩二も息を詰める。
美月は瑞希の腕にしがみついたまま、すぐに謝った。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。
私気が動転してて、健吾くんの手紙に浩二くんのところに行けって書いてあったから、ここしかないって思って……」
「……え?」
じっと美月を見ていた瑞希は、そこで表情を変えた。
「……それって、どういう……」
「わからないけど、浩二くんに事情を全部話して、あいつのとこに行けって……」
美月は思い出したのか、目尻に涙を溜める。
その様子を眺めていた瑞希は、やがて「そうですか」と目を伏した。
最初のコメントを投稿しよう!