叶わない我儘

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店内は仕事帰りのOLで賑わっていた。 あまり騒がしいのは寝不足の頭に響くけれど、これくらいのざわめきはひとりで待つにはちょうどいい。 瑞希はテーブル席を抜けて奥のカウンターに座ると、店員にファジーネーブルを頼んだ。 さすがに昨日からろくに食べていないから、少しは胃になにか入れないと。 好物のラタトゥイユを注文した時、ミヤサカからLINEが届いた。 『待たせてごめん。 もう少ししたらそっちにいけると思うから、居場所を教えて』 現在時刻は8時12分。 予定よりも一時間近く早い連絡に、瑞希の鼓動が早まった。 昨日も眠れずいろいろと考えていたけど、時間とともになにを話せばいいかわからなくなる。 知りたいことと、聞きたいことは別だからだ。 『お疲れさまです。 今新宿駅近くのバーにいます』 店の地図とともにメッセージを送信すると、瑞希は重い気持ちを押し流すように、ファジーネーブルを口に運んだ。
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