叶わない我儘

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「お待たせしました」 注文したラタトゥイユが目の前に置かれたけど、やっぱり胸が詰まって喉を通りそうにない。 それでもミヤサカがくると、食事どころじゃないだろう。 体のことを思うと、すきっ腹にアルコールだけ入れるのはよくないと、瑞希は仕方なくフォークを手に取った。 人間、本当に参っている時はなにを食べても味がしない。 だけど食べた瞬間、おいしいと思ったのは予想外だった。 同時に、張りつめていた緊張の糸が緩む。 (なんだ……まだ大丈夫じゃない……) もう一口ラタトゥイユを食べてもやっぱりおいしくて、瑞希は鼻の奥がつんとする中、それを食べきった。 ファジーネーブルのグラスが空になる頃、急にテーブル席のほうが騒がしくなった。 そちらに目をやると、OLたちが入口のほうを見つめて騒いでいる。
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