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 素足で大地と対峙していました。靴、そんなものがあったでしょうか。偏平足かつ外反母趾のわたしの足は、そんなものを受け付けません。お金がかかる子だね。薄汚れたワンピースひとつで、わたしはどこにだって行けるのです。さびしいのですか? ええ、さびしいのです。大地には恐ろしいものが隠されています。茨だとか棘だとか放射能だとか、放射能、だとか。傷ができます。痛いです。ばんそうこうを貼ります。また違うところに傷ができます。ばんそうこうを貼ります。傷ができます。そうして、ばんそうこうの箱を使い切ったときにわかるのです。いたちごっこだ。やめた。やーめた。  わたしは、駅に向かって歩きます。探したいものがあるのです。もうすぐ「おうちに帰ろう」の音楽が鳴ってしまいます。あの子を……あの子を、見つけ出さなければ……!  コインロッカーには、血だらけの赤ちゃんが、ひとりひとつずつの箱に入って捨てられています。わたしは毎日ここに来て、あの子を探さなくてはいけない。  ちがう。ちがう。ちがう。  ばたん、ばたん、ばたん。  乱暴にコインロッカーを閉めてゆきます。死んでいる赤ちゃんの方が多いのです。彼/彼女たちをわたしは弔おうと、扉を閉めてゆくのです。ばたん、ばたん、ばたん。どうか泣き声を轟かしておくれ。御国で、天上で。あなたたちのお母さんとお父さんにも聞こえるように。ばたん、は、レクイエムにもなりました。  ピーーーーーーーーーーーーーーッ!  警告音が鳴ります。駅のホームに並んでいる人々はみな灰色。肉声を知らぬまま、文字を打ってコミュニケーションしています。首をかしげたくなります。  灰色、灰色、灰色、灰色……赤、赤!  見つかりました、わたしの赤い子。睦んでもいない、孕んでもいない。でもわたしにはわかるのです。あの子はわたしの赤い子。赤い子は血まみれのまま、ホームに並んでいます。よかった、無事だったのね、お母さんよ、わたしはお母さん。
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