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ぼんやりしていると、電話を終えて、携帯をポケットにしまいながら、鳴門さまが私を見た。
「ごめんね、話の途中で」
ああ、何て礼儀正しいんだろう。
胸の痛みは、彼女の存在を実感した苦しさと、気遣ってもらえた嬉しさの二重奏だ。
そして、落ちたままになっていた他の物もエコバッグに入れて、手渡してくれる。
「あ、ありがとうございます」
ぼそぼそと言いながら受け取っていたら、後ろからカツカツと勢いのある足音が響いてきた。
「たいせーい!」
「あれ、奈津美?」
ふわっと私の横をきれいな色が横切り、それはそのまま大誠さんに抱きついた。
それは、私なら絶対に似合わないようなパステルカラーのワンピースで、ミルクティー色の柔らかそうなロングヘアが、背中に波打っている。
「びっくりするだろ、奈津美」
「へへ、実は近くまで来てたの」
そう言って微笑んだのは、天使のような、いや、女神のようにきれいな女性だった。
大誠さんと彼女が並ぶと、まさに美男美女。
がんっと頭を殴られたような気がして、私はエコバッグの持ち手を握りしめると、踵を返した。
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