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ふにゃ、と私の体から力が抜けたのを感じたのか、大誠さんの体が体重ごと支えてくれる。
私がおずおずと振り向いて、彼の顔を見上げると、目が合ったとたん、彼の眉間にしわが寄る。
「……ちょっと、急いで帰るから」
と言うなり、彼は私の手を引いて、速足と言うか駆け足になった。
な、何だ?
訳がわからないまま、ひたすら走って、大誠さんのマンションに連れ込まれる。
エレベーターに乗ろうとしたけど、上の階で停まっていて、なかなか降りてこない。
苛立ったようにボタンを連打していた大誠さんは、ああもう!と叫ぶと、非常階段の方に向かった。
3階まで一気に階段を駆け上らされた私は、もう息が上がってしまって、抵抗する気力もない。
荒い息をつきながら思ったのは、着物じゃなくて良かった、ということだった。
「と、トイレに行きたかったんですか?」
焦った手つきで鍵を差し込む彼に、私は問いかけた。
「トイレ?」
「だって、すごく急いでるし。
早く入って下さい、体に悪いですから」
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