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思えば彼は、いつだって私の意思を尊重してくれていた。
今だってきっと、私が本気で嫌がっていたら、すぐに止めてくれていたはず。
私が、本気で抵抗していなかったから。
「大誠さん」
私はそっと起き上がると、まだ赤くなっているおでこに軽く、唇を当てた。
ごめんなさいと、好きですの気持ちを込めて。
「……もっと下にも」
ちょっと甘えたような顔で、彼がねだる。
普段は、私からすることはほとんどないんだけど、今は恥ずかしさよりも、彼を愛おしいと思う気持ちの方が強かった。
薄い唇は、私が触れるのを待つように、ゆるく弧を描いている。
静かに触れた唇は、私が離れかけたとたん、グッと後頭部を押さえつけられために、再び距離がなくなった。
しばらく、お互いの呼吸までも飲みこんでしまいそうな熱いやり取りが続いた後、息が上がってやっと離れる。
「……早百合は、俺を生殺しにする名人だよ」
と、大誠さんは恨みがましく私を見て、ため息をつく。
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