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とさっと。
私の勢いごと、受け止めてくれる何か。
あ、頭は無事?
タンゴでも踊っているような体勢になりながらも、私は誰かの腕の中に背中を預けていた。
とっさに目をつぶってしまったから、恩人の顔が見えない。
反動をつけながらも優しく私を立たせてくれる腕の持ち主に感謝を述べようと、起き上がって目を開けた私は、まだまだ慣れない営業スマイルを浮かべた。
「ありがとうございました」
そこにいたのは、長身の男性。
う、ぼやけてる。
実は今朝、眼球に軽く傷がついたのか、痛くてコンタクトレンズを入れられなかったので、ただいま裸眼の私。
せっかくのドレススタイルにメガネは似合わなかったので、必死に目を凝らしながら、ここまで乗り切ってきたのだ。
それでも。
「大丈夫?」
この声を、私が忘れるはずもない。
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