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今、きっと落ち着いた。
やっと大人になれた。
だからこうして会いに来れたのだと思う。
ちゃんと僕はいつもと同じ表情を作れているだろうか。
電話と同じ声を発することが出来ているだろうか。
もう、よくわからない。
僕は要領はいい方だが、こういうことには不器用だ。
けれど2人が、
「よく頑張った」
なんて、笑うもんだから。
僕は涙を堪えきれずに笑う。
それが恥ずかしくて、一気にビールを煽って俯いた。
そうすると空のグラスにまた父がつぐ。
そして静かに、
「男だろうが」
そんなことを言う父の声も微かに震えていた。
ああ、たった片道6,150円分の時間をかけたら。
これほど暖かくなる気持ちを。
どうして僕は頑なに意地になっていたのだろう。
15年分の時間はとても早歩きで。
いや、まるで短距離走の様に過ぎてしまった。
けれどこれからこうして少しずつ埋めてはいけないだろうか。
「ほら、次は僕がつぐよ」
……
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