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「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」
という冒頭文から始まる長編小説を僕は何となく思い出していた。
内容はあまり知らないが、これだけは有名だ。
ただもう長いトンネルを抜けると、雪は溶け、花は散り、新鮮な若葉の清々しい香りが胸いっぱいに吸い込めそうな緑が広がっている。
「田舎だなあ」
そんなことを8時52分発、Maxたにがわの自由席の車窓からぼんやり呟いた。
今この新幹線に乗っているのは、本当に気まぐれだ。
僕はたいしたことも考えていなかったが、家族は元気かな、そんな軽い気持ちである。
見渡せば、混雑としていた車両は、いつの間にかぽつぽつと疎らに座る人程しかいない。
やっと弁当が開けられる、などと売店のビニール袋を持ち上げたのだが。
既にあと少しで下車しなければならないことに気付く。
6,150円の時間はあっという間だ。
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