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僕は溜息交じりに手にしたそれをまた置いた。
そしてグレーの薄いジャケットを捲り、中に着た濃いデニムシャツの胸ポケットから携帯電話を取り出し、「もうすぐ着く」とラインをすれば。
「さすが、10も歳が下だと……」
返事を打つのが早い。
しかもこの数秒でこいつはスタンプまで押してくるのだから。
こいつ、というのは僕の歳の離れた妹だ。
だらしないがある程度要領のいい僕とは違い、しっかりと物事をこなし行動が早く無駄がない。
こういう所は僕が父親譲りでこいつは母親譲りなんだとすぐに理解出来る。
兄妹で似た所と言えば、金をかける所が食べ物だということくらいだろうか。
そんなことを、どうしようもないな。と苦笑していれば、僕の下車する駅についた。
ジャケットを着てきて正解だな。
ここは背筋も直るような肌寒さがある。
車内では頭が、ぼう、とする暖かさだったのが、一気に体中の空気が入れ替えられる新鮮な気分だ。
全く並びもせずに切符を改札機に滑らせると、妹らしき人物が腕組みをしながら立っていた。
「もう、遅い」
「そんなの新幹線に言えよ」
「これから彼氏に会いに行くんだから、早く車に乗ってよね!」
妹は足早に吐き捨てると、いそいそと駐車した車に乗るよう促す。
「なに、彼氏いるの?」
「もういい歳だよ」
「そうだな、お前でかくなったな」
エンジンをかけると、ルームミラーを確認しながら妹が気まずそうに呟く。
「電話や写メを送ったりってラインはよくするけど、私達……もう15年も会ってないんだから」
そうだ。僕はあれから15年も自分の育った土地を踏んでいないのだ。
それだけ経てば、小学生だった妹に彼氏がいることなんて不思議でも何でもない。
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