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ソイツの動きは優雅だった。
黒い翼をはばたかせ、黒く長い髪を風に靡かせる。
『舞いながら戦う』そう言った表現が相応しい。
そして、強かった。地の利がある分、あたしの方が有利な筈だったのに、押されっぱなしだった。
常に表情を変えず戦う男。
冷たく、鋭い気配を漂わしている。
だけど、ふいに哀しそうな表情を見せる。
その顔に、胸がざわめく。
妙な感覚だった。ソイツの表情に感化されるみたいに、締め付けられるような感覚。
訳の分からない感覚に囚われ、気が付くとあたしの背中は地面に着き、空に広がる黒い雲の隙間から覗く蒼い月を見上げていた。
追い詰められ、切っ先が喉元に向けられる。
しかし、その切っ先はあたしを斬る事なく仕舞われた。
「……なぜだろうな。お前を殺したいとは思わない」
ソイツは少しだけ困ったように微笑んだ。
再び、胸がざわめく。
だけど、これはさっきとは違う。どう違うか分からないけど、全く違う。
それが分からないまま、ざわめきは治まり、再び『戦いたい』という気持ちが沸き上がる。
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