第1章

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血で落書きした記憶のある大木を3本程過ぎた所で車がエンストを起こした。仕方ない。盗んで来た車は無免許の俺にはちんぷんかんぷんだった。灯油切れでもしたのだろう。 ピーピーという音が車のSOSサインに思える。だが、助ける人間などもうどこにもいない。 俺はポンコツの中古車の運転席の扉を思いっきり蹴飛ばした。軽く悲鳴を上げて、車は静かになる。 麻薬の粉を財布の小銭入れの中に入れて、歩き出す。5年前の姉さんは美しかった。果たして今はどうだろうか。 砂がジャリジャリ音を立てる。散り散りに分散された雨の後の草が足首を濡らす。 雲が優雅に泳いでいた。 財布の皮に混じって、麻薬特有の匂いに酔い痴れる。 木々の騒めきも静かな時間の一種でしかなかった。 俺は欠伸を噛み殺し、身体を伸ばした。 両親共に俺から逃げた。滑稽な話だ。自分の息子が悪魔だと深刻に話し合う男と女は家族として機能しているとは言い難かった。 殺しはしない。ただ口封じし、逃してやった。俺の殺人の趣味の問題である。 青いアゲハ蝶が飛んでいる。時々、こうして俺を錯乱させようと企んでいる。厄介なヤツだ。それでも俺は付いて行く。 姉さんの死体を見つけた。
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