第1章

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姉さんは腐乱死体にしては綺麗だった。実家の倉庫の守り神だ。臭いが酷かったから思わずむせてしまったけど、鼻から空気を吸うのをやめると何とか耐えられそうだった。 ウジ虫が姉さんの目から顔を出す。姉さんの目にはポッカリ穴が空いている。姉さんはガリガリに痩せ細っていた。 心臓辺りの傷が黒ずんだ色で染み付いている。 俺が刺した傷だ。 俺は青いアゲハ蝶を探した。 またいなくなった。アイツは自由気ままに現れては消えていく。 綺麗なのにな…。 俺は手でカメラの形を取り、姉さんに向けてニッコリ微笑んだ。 「笑ってよ、姉さん」 姉さんは、俺のスマイル耐性が付いているのか笑わない。 「寂しいじゃないか」 本当は寂しくなかった。多くの生物の命を俺が握っていた。 女が欲しい時に使うマスクを被る。 「またね、姉さん」 姉さんは確かに手を振った。 俺は満足気に頷いた。 ふと背後からの視線に気付いて振り返る。 何者かが俺を見ている。 俺は姉さんの屍を越え、視線の先に向かった。埃が沢山、崩れ溢れて来る。まだ昼なのに夜のように暗かった。夜の街に慣れている俺だからこそ暗闇に臆することはない。 何とか倉庫の奥まで辿り着いたが、視線は消え失せていた。
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