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本は不思議と重みが無かった。まるで無重力で浮いているかのようだ。
俺は顔を歪ませて笑った。
「おいおい」
冗談だろ?俺の血筋にはまともな人間はいなかったらしいが、実家の倉庫で摩訶不思議な物が眠ってると誰が想像できる?これがまあ、俺を主人公にした物語だとして、運命は俺の要望に応えられるかい?
文字が読めない。
この本は何語だろうか。見たこともない。
高級そうなカバーの皮の匂いを嗅いで、少し上機嫌になった。
六芒星を人間の血で書き、中央に立っていれば、血の儀式は終わるらしい。挿絵と直感頼みの推測だ。結果が何であれ、好奇心で猫のように殺されても悪くないと思った。
もちろん、ついでだ。いつもの延長線だ。
春の夜はTシャツだと少し寒かったが、思わず、ハミングしてしまう。
分厚くてよく分からない本だが、手の平の上で軽やかに踊ってくれる。ただ空中に投げているだけでも、俺の手にしっくりと来た。
コイツは生きてやがるぜ。
ハミングが途中で止まる。
「あ」
俺は雫の滴る葉を踏み締めながら言った。
「車、エンストしてたの忘れてた」
夜の匂いを嗅ぎ分けながら、左右を見渡す。
「明日の朝、ここまでバスが来るかな?」
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