赤霧孝之助1

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だから殺せない。彼女を殺せない。殺すどころか、傷すらも付けられない。 時を止めると、全てが止まる。 それは錦之宮楓も例外ではない。彼女もピクリともしなくなる。 時を止めている中で、人の首を締めても締まらない。 爪で引っかこうとしても、引っかけない。 時を止めると、全てがこの世の道理に従って止まる。 その上で何かをするなど、できるはずもない。 時を止め、扉が閉まっていたので窓から出ようとした時があった。横着して窓から飛び降りた時があった。 学生の頃の話だ。 窓から飛び降りた私は着地した瞬間、悲鳴を上げた。 1人しかいない世界で、大きな悲鳴を上げた。 草。 雑草。 普段なら着地しても何ともないただの芝生が、まるで刃物にでもなったかの様に私の足を襲った。 時が止まってる故の事故。ただの草が、まるで鋭利な刃物のように。 当時学校用の上履きを履いていたから、靴の底が草によって破かれ、鋭利な雑草達が私の足に次々と刺さった。
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