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「今更隠してもダメですよ」
それを見て錦之宮楓が笑う。ケラケラと笑う。
そして僕に向かって、喉を突いた。
錦之宮楓が、自分の人差し指で、自分の喉を突いた。
「殺して下さい。もし、出来るなら」
「……挑発か?」
「違いますよ」
彼女は掛け布団で身を包んだまま、両手に力を入れた。
そのせいで掛け布団にギュッとシワがよる。
「死ねないんです。私」
悲しそうな表情だった。
万丈圭吾の死体を目の前にし、それから1日しか経っていない今日でさえ。
彼女は笑顔で学校に来ていた。
ナイフを持った僕を目の前にしても、彼女は笑みを絶やさなかった。
そんな彼女が、悲しそうな表情で僕に言った。
死ねないんです。
僕は知る。知ってしまう。
彼女に課せられた運命を。彼女が今現在、背負っている物の大きさを。その圧迫感を。
彼女の力の、本当の怖さを。
僕は思い知らされる。
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