十々海レッカ7

20/20
1997人が本棚に入れています
本棚に追加
/415ページ
「今更隠してもダメですよ」 それを見て錦之宮楓が笑う。ケラケラと笑う。 そして僕に向かって、喉を突いた。 錦之宮楓が、自分の人差し指で、自分の喉を突いた。 「殺して下さい。もし、出来るなら」 「……挑発か?」 「違いますよ」 彼女は掛け布団で身を包んだまま、両手に力を入れた。 そのせいで掛け布団にギュッとシワがよる。 「死ねないんです。私」 悲しそうな表情だった。 万丈圭吾の死体を目の前にし、それから1日しか経っていない今日でさえ。 彼女は笑顔で学校に来ていた。 ナイフを持った僕を目の前にしても、彼女は笑みを絶やさなかった。 そんな彼女が、悲しそうな表情で僕に言った。 死ねないんです。 僕は知る。知ってしまう。 彼女に課せられた運命を。彼女が今現在、背負っている物の大きさを。その圧迫感を。 彼女の力の、本当の怖さを。 僕は思い知らされる。
/415ページ

最初のコメントを投稿しよう!