十々海レッカ9

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「辛くはないのか?両親が。お父さんとお母さんが君の幸せを願っているのに。 生きて、笑顔でいてくれる事を願っているのに。 それを棒に振るような真似をして。自らの断ち切るような事をして」 誰よりも君の幸せを願っているご両親に、君は死にたいと応えるのか……? それは正しい選択なのか?君はそれで、何とも思わないのか……? そう畳み掛けるように心の中で、僕は彼女に聴いた。心の中で、僕は尋ねた。 でも口には出さなかった。最初の言葉だけで、口を閉ざした。 もう一人の僕が、それを止めた。僕の口を閉ざした。 何を考えているんだ、僕は。 暗殺のターゲットに何を言い出すんだ。 僕は暗殺者。彼女に死を与える者。命を断ち切る者。 そんな僕が。誰よりも彼女の死に身近にいる僕が。 一体どんな立場からそんな事を言えるというんだ。 「辛くないよ」 グルグルと、螺旋のようにいくつも絡み合う僕の感情を。いつくもある僕の心の中を。分断しかけている僕自身を。 そんな全ての、黒くて暗い感情を断ち切るように、錦之宮楓は言った。 笑顔で言った。 「だってさ」 いつも見てきた笑顔。太陽みたいな笑顔。眩しいくらいの笑顔。 でもその時は違った。振り返りながら見えたのは、とても弱々しい笑顔だった。 今まで見てきた彼女の笑顔の中で、それは一番切ない笑顔だった。 泣きそうになりながら、必死に笑っている彼女だった。 辛くて、苦しくて、寂しい笑顔だった。 「私の力で、その両親が死んでしまう事の方が、ずっとずっと辛いから」 その言葉を聞いて。悲しい笑顔を見て。 僕は何も言い返せなかった。言葉が出てこなかった。全ての感情が、一気に薙ぎ払われた。 見るのさえ辛くなるようなその笑顔を目の当たりにして、僕は何も言えなかった。 この会話の中で、僕の中に残った物は。 僕が言った事に対して、僕が感じた物は。 罪悪感だけだった。 彼女に吐いてしまった、言葉の数々の後悔だけだった。
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