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世界は残酷だ。この上なく、残酷に出来ている。
暗殺者である僕がこんな事を言うのはおかしいと、他者は笑うかもしれない。
存在自体が残酷な暗殺者が世の中の残酷さを語るなんて、殺された人間からすればうんざりな話だろう。
お前の方が残酷だよ、人殺し。そう声が聞こえてきそうだ。
でも僕は思う。そう誰かに罵られても、思ってしまう。やっぱり世の中は、残酷だ。
思うようにならなくて、自分の考えている事ができなくて。やろうとしているのに認めてもらえなくて。空回りして。
頑張っても頑張っても報われなくて、努力をしても追いつけなくて。
頑張ってない奴が報われて。努力してない奴がどんどん先を行って。
それでも泣く事が許されず、苦しい顔が出来ず、笑顔でいないといけない時がある。
笑顔を作らないといけない時がある。
そんな運命を、受け入れないといけない時がある。
「そうか。昨日は楽しめたか」
昨日の夜、赤霧孝之助を訪ねて手合わせを願い出た。
それで僕の殺意のレベルを、確かめておきたかった。錦之宮楓に対する暗殺の意思を、僕自身がきっちりと把握しておきたかった。
僕は自分が思っている以上に、錦之宮楓に情を流している。彼女に同情してしまっている。
錦之宮楓の事を、とても近くにおいてしまっている。距離を詰めすぎてしまっている。
だから確かめた。赤霧孝之助を使って。
彼を訪ねる寸前に、僕は自分自身に暗示をかけた。
この部屋の中にいるのは錦之宮楓だ。校長室の机に座っているのは錦之宮楓だ。
そう意識しながら、僕はナイフを奮った。
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