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いつもの僕なら気がつけた。暗殺者の僕なら、絶対に見逃さなかった。
感じる事ができた。センサーがもっと早く鳴るはずだった。
寝不足だった事。考え事をしていた事。錦之宮楓と会話をしていた事。油断していた事。
暗殺者ではなく教師の方が向いているかな、なんて、そんな腑抜けた事を考えていた事。
全てが重なり、僕の気の緩みを招いた。招いたから、僕は気がつく事ができなかった。
気付くのが遅れた。一瞬だけ、遅れた。
その一瞬は、まさに最悪とも言えるタイミングだった。
その一瞬で、僕の、そして彼女の全てが変わった。
錦之宮楓が客室の扉を開ける。その開けた瞬間、僕は錦之宮楓を止めようとした。
錦之宮楓を客室に入れてはいけない。そう頭の中でセンサーが鳴り響いた。
でもそれは、一瞬だけ遅かった。
僕が油断していたから遅かった。
全てのタイミングが重なり、それが最悪の自体を起こした。
僕がもっと早く気がついていれば、全く別のシナリオがあったかもしれないのに。
僕はそのタイミングを、完全に外してしまった。
伸ばした僕の手は届かず、錦之宮楓は客室に入り込む。
お父さんとお母さんのいる客室へと、何の躊躇いもなく入る。
扉を開けた瞬間に僕の嗅覚を刺激した血の臭い
鉄臭い、臭い。
それを感じてから、体が動き出すまでの時間が、一瞬だけ遅れた。
遅れてしまった。
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