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赤霧孝之助と水之上四季美が、僕たちを残して席を外す。立ち去る。
僕は錦之宮楓を見た。呆然と、何を見ているかも分からない彼女の事を見つめた。
その姿に、僕は心を締め付けられた。
僕はしくじった。
何で。どうして気がつけなかった。僕なら分かったはずだ。
二人が殺される事が、分かったはずなんだ。
拳を強く握る。歯をくいしばる。
ヒジリ。僕の弟。
あいつが錦之宮楓の両親を殺した。間違いない。これはあいつの手口だ。
あいつが錦之宮楓の両親に手を出す。そんな事、少し考えれば分かったはずなのに。あの日の夜、ヒジリと会った夜、気付く事ができたはずなのに。
僕なら気がつけた。二人の警備をもっと強くしておくべきだった。
僕が、僕自身の事で一杯一杯でなければ、こんな事態には陥らなかった。
いつもの暗殺者からの目線で見る事が出来ていたら、2人は死なずに済んだ。
弟の愚行を止められた。
僕のせいだ。二人が死んだのは、僕のせいだ。
僕の考えが至らなかった。僕の油断が招いた結果だ。
「錦之宮……」
僕はゆっくりと、彼女を呼ぶ。
呆然と立ち尽くす彼女の肩に、そっと手を乗せた。
僕はこの後、彼女に何と言えばいい。
どうやって接すればいい。
慰めるのか……?
一緒に泣くのか……?
誰がやったんだと怒ればいいのか……?
僕がしっかりしていればと悔いればいいのか……?
彼女に、どんな顔を向ければいい。彼女に何て声をかければいい。彼女にどんな態度で接すればいい。
僕は。
僕のせいで死んだ両親の子供に、僕はどうやって接すればいい。
暗殺者の僕が。
教師まがいの僕が。
彼女になんて声をかければ良いんだ。
何が正解なんだ。
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