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「先生ぇ……。ぅあぁぁ……」
僕の体を、錦之宮楓が抱きしめ返す。彼女の腕に、手のひらに、力がこもってくる。
彼女が、僕の胸に顔をうずくめる。そこで震える。震えながら、弱々しく声を漏らす。涙を流す。
その声が、少しずつ大きくなってくる。線が切れたみたいに。我慢してた物が、爆発したみたいに。
「お父さん……。お母さんっ!嫌だ!いやだぁぁぁぁ!」
僕は強く、強く錦之宮楓を抱きしめた。放さないように強く。
剥がされないように強く。
地面の砂が宙を舞い出す。小さな地響きが発生する。地面が揺れる。風が起こる。建物が悲鳴を上げ出す。
「あ゛あぁぁぁぁ!うあ゛あぁぁぁぁぁぁぁ!」
壊れていく。校舎が。どんどん崩壊していく。
校舎だけではない。もっと広い範囲で念力が作用しているかもしれない。
校舎だけで収まっているか分からない。
分からないけど。
「たくさん泣け」
どうでもいい。
この子が泣きたい時に泣く事ができるなら。
あんな悲しい笑顔をせずに済むのなら。
もう世界がどうなろうと。
どうだっていい。
壊れようが、なくなろうが、滅びようが、どうでもいい。
僕の独断。完全な独りよがり。
ただの身勝手な行動。
それによってこの日。僕のその判断によって。
赤霧孝之助を校長とする、この学校の校舎が。
異能力者を匿う施設が。
崩壊した。
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