十々海レッカ15

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「座ろうか」 「そうだね」 散々グルグルと考えた挙句、出てきた言葉はそれだった。いや僕よ。頭が回ってないのは分かるが。冷静でない事は、他の誰でもない僕が承知の上なのだが。 もう少しこう、あるだろう。「似合うな」とか、「綺麗だな」とか。 何でこんな時に出てくる言葉が「座ろうか」なんだ。ちょっとだけ巻き戻せ。さっきの一言をやり直せ。 赤霧孝之助。出番だ。出てきてここの時間を巻き戻してくれ。男としての一言を間違えた気分だ。 未だに心音が騒がしいまま、そして内なる僕がギャーギャーと騒いでいるまま、僕たちはテーブルに着いた。 星空や夜の海がよく見える、このレストランの一番いい席だ。 「先生……」 「ん?どうした?」 「ナイフとフォークがいっぱい……」 「あー」 テーブルに敷かれた白いテーブルクロス。上にはワイングラスが置いてあり、平たい下皿が一枚。 そしてその下皿を挟むようにしてナイフとフォークが数本ずつ。その数を見て錦之宮楓が目を丸くした。 一応洋食の店を選んだからな。さすがの錦之宮楓でもこういう形で食事をするのは初めてか。 「外側から順に使うんだ。それぞれの料理に合ったナイフとフォークが置かれてるから」 「へー……」 目を丸くしながら彼女はぎこちなく椅子に座る。 その姿は結構笑えた。大人びた格好をしててもやっぱり錦之宮楓は錦之宮楓だ。 それを思うと、逆に僕の方の緊張がほぐれた。緊張する彼女の姿を見て、僕の緊張が緩んでいった。 彼女はいつもと変わらない。そこが良いところで、面白いところだ。彼女らしいところだ。
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