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僕はポケットに入れてある毒薬を、ポケットの上から握りしめる。きちんとポケットにある事を確認する。
まだ1時間半ある。
1時間半、彼女と話す時間がある。猶予がある。
形上では、僕は錦之宮楓を拉致した事になっている。赤霧孝之助の許可なく、誘拐した事になっている。
巨大ニトロ爆弾を勝手に持ち出したと言う事になっている。
この事態に関して、赤霧孝之助が裏で糸を引っ張って隠してくれているだろうが、それも限界がある。
彼女の不在を隠すには限界がある。
日本の防衛省は彼女の危険度を認知している。彼女の念力の事を知っている。彼女の危険性をきちんと理解している人物が、極一部だが存在している。
もしこの拉致の事がバレたら、赤霧孝之助を校長とするあの学校が責任を問われる。
さらに最悪の場合、錦之宮楓が防衛省によって保護される。それだけは避けなくてはならない。保護されてしまえば、彼女の運命はより一層過酷になる。
学校には任せておけないと、そういう判断を防衛省に下されてしまえば、それで終わりだ。
赤霧孝之助は1日が限度だと。そう示唆してくれていた。隠し通すのは1日が限度だと、そう暗示していた。
明言はしていないが、彼がしっかりと言葉の裏でそう示してくれた。敢えて言わずに、しかしそれらしい言葉を並べて僕に伝えてくれた。
彼の、赤霧孝之助の事は裏切れない。この1日を作るために、尽力してくれた彼を無下に扱う訳にはいかない。
あと1時間半。それで僕は、決着をつけないといけない。
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