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「間違えた」
「何をどう間違えればそんな言葉が出るんだ」
にひひっと彼女が歯を見せて笑う。でもその笑いは、少しだけ力なく見えた。いつもの元気で活発な笑みではないような気がした。
何だ。彼女がやけに大人しい。大人しいと言うか、何と言うか。
「いいよ」とか「襲っても」とか、冗談を言っているのに。ふざけているはずなのに。
彼女の態度が何故か大人しい。冗談を言う様な態度に見えない。むしろ真剣に、彼女は僕の事を見ている。見ている気がする。
何だ。何なんだ。彼女の言葉と、その態度が一致しない。妙な感覚。冗談ではない訳ではないだろう。本気で言っている訳ではないだろう。それくらいの分別は僕でもつく。
でもどうしてだろう。冗談を言っているのに、態度が真逆だ。言葉だけが冗談になっている。
僕をからかっているように見えない。
いつもなら、イタズラな笑みを浮かべながらそういう事を言うのに。僕の事をバカにするみたいに、ケラケラと笑いながらそれを言うのに。
今は何というか。
無表情。
穏やかな表情。
悟ったみたいな。全てを理解しているみたいな。
見透かしたみたいな。
そんな表情。
「するんでしょ?」
「だから君はーー」
反論しようとした。さらに冗談を重ねようとする彼女に対して、僕はいつも通り切り返そうとした。
でも出来なかった。彼女の次の一言が、それらを全て遮った。
全てなぎ払った。一掃した。
次の一言に、僕は心臓が止まるほど驚いた。
僕の言葉を遮って彼女が言った。
その言葉に、ドキリとした。
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