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「暗殺」
「えっ……?」
一瞬、時が止まったかのように感じた。僕の息が、途中でピタリと止まって、彼女の言葉を聞いた。
僕と彼女だけの空間の中で、その中の時が止まり、全てが遮断されたような気分になった。波の音や、隙間風の音が全て止み、シャットアウトされ、僕と彼女だけの世界になったかの様な。
そんな感覚に襲われた。
彼女の言葉が耳から入って、理解して、頭の中でショートを起こした。エラーを起こした。
彼女に今回の計画は伝えていない。今回の暗殺計画は伝えていない。何も話していない。
今日の23時30分に彼女の暗殺を決行する事を、僕は彼女に言っていない。時間も、日にちも、どうやって暗殺するかも。
全く何も伝えていない。
心の底から、今日という日を楽しんでもらいたかったから。何も気にせず、今日という一日を最高の一日にしてほしかったから。
死ぬ前だから優しくされてるとか、最期だから色々連れて行ってくれているとか、そんな建前を持って欲しくなかったから。
そんな偽善的な事を僕が考えていると、彼女に考えて欲しくなかったから。一瞬でも思って欲しくなかったから。
僕は彼女を拉致して、たくさん楽しんでもらって、たくさん笑ってもらって、たくさんの思い出を作って欲しかった。
僕はただ、それだけがしたかったのだから。
だから彼女に、暗殺の事に関しては悟られないように、気付かれないように、細心の注意を払った。
払っていたつもりだった。
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