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「錦之宮……」
「あ、勘違いしたらダメだよ!
今日はすっごく楽しかったし、先生の優しさも本物だって知ってるから。建前なんかじゃないって、分かってるから」
理解してるから。
錦之宮楓はそう言いながら満面の笑みを浮かべる。
「知ってたのか……?」
「知ってたって言うか……」
もしかしたら赤霧孝之助との会話を聞かれていたのか……?
僕の作戦が、どこからか漏れていたのか……?
絶対に悟られないようにしていた。気付かれないようにしていた。
それを知るだけで、今日と言う楽しみが、とても切なく感じると思っていたから。心が締め付けられると思っていたから。
それこそ彼女がいつか言ったみたいな。死刑囚が最期の食事を選べると言ったみたいな。そんな寂しい感覚に変わってしまうから。
もうこれで最後。これ以上はない。これ以上は望めない。望んではいけない。
そんな考えのもとで、今日を過ごして欲しくなかった。僕との時間を過ごして欲しくなかった。
そんな考えのもとで遊園地や、水族館や、動物園に出向いて欲しくなかった。
そんな考えを胸の内に秘めながら、笑ったり楽しんだり、はしゃいだりして欲しくなかった。
そんなの。楽しくなる訳がない。心から遊べる訳なんてない。
だから僕はあえて、錦之宮楓には暗殺の事は話していなかった。話していなかったと言うよりも、むしろ隠し通そうとしていた。
秘密にしていた。決して悟られないようにしようとしていた。
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