2000人が本棚に入れています
本棚に追加
「気がつくよ。先生の顔を見てたらさ」
「僕の……顔?」
「そう。先生、分かりやすいもん」
僕が、分かりやすい?
暗殺者の僕が、表情から考えを読み取られたとでも言うのか……?
暗殺者である以上、僕は極力考えを悟られないためにポーカーフェイスを心がけている。心がけていると言うか、そもそもそんなレベルではないか。
幼少期からその訓練を受けている。どんなに心が動じても、決して顔には出ないように。そう言う訓練を、小さい頃から受けている。
ヒジリほどではないが、僕の表情だって相当読みにくいはずだ。同じ暗殺者でも、僕の表情から考えを読み取るのは不可能なはずだ。
はずなのに。
そんな僕の表情が分かりやすい……?
そんなはずは……。
「先生さ。私の事を考えてくれてる時、凄く表情に出るんだよ?」
「……そうなのか?」
「うん。自分ではポーカーフェイス気取ってるつもりだったでしょ?」
「うっ……」
気取ってるとか言われた。しかもぐうの音もでない。女子高生に考えている事を読まれていたのでは、暗殺者として返す言葉もない。
そんなにも分かりやすかったのか?そんなにも表情に出ていたのか?
錦之宮楓に言われておきながら、それでも信じられない。信じられないけど、彼女が言うのなら事実なのだろう。
考えを見透かされたのだから、それが何よりの証拠だ。
ターゲットに悟られる程に、僕の刃は鈍ったのか。僕の顔の仮面は、崩れてしまっていたのか。
暗殺者として、堕落してしまっていたのか……?
彼女にそれだけ、情を寄せてしまっているのか。距離を詰めてしまっていたのか。
彼女を見る目が、僕の中で知らず知らずに変わっていってしまったと。
そう言う事なのか……。
ターゲットとしてではなく、別の何かとして見てしまっていたと。
別の何か。大切な存在として。僕の中の、かけがえのない存在として、彼女が居座り始めているのだと。
だから僕は、暗殺者としての自分を保てなくなっている。彼女に、こうも近く寄り過ぎている。
そう言う事なのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!