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「今日は凄く楽しかった。最高の思い出ができた」
錦之宮楓は側にある窓から外の景色を眺めた。
海。そして星。月。何もない所だからこそ輝く景色。美しい景色。
余分な街灯なんかがないぶん、星々は幾千と輝き、絶景となっていた。
そんな夜空を見ながら、彼女は静かに言う。僕に向かって、寂しく微笑みながら言う。
「だから先生。始めていいよ」
「っ……!」
あと一時間ある。まだ時間はある。そう思っていた僕の心が、一気に締め付けられた。不意に、力強く、虚をつかれたように、突然締め付けられた。
胸の奥側がギュッと小さくなるのを感じる。色んな感情が混ざり合って、津波のように僕の心を襲う。呼吸が乱れて、息苦しくさえなった。
彼女への感情が、僕の頭の中をかき混ぜた。ぐちゃぐちゃにした。そしてぐちゃぐちゃされた後で気がついた。
気が付かされた。
彼女との距離を詰め過ぎてしまっていたのかとか。彼女に流されてしまっていたのかとか。
考えるまでもないじゃないか。悩むまでもないじゃないか。
殺してと願う彼女に、僕に要求する彼女に。これだけ心が乱れるのだから。これだけ不安定になるのだから。
僕の中で彼女がどれだけ大きな存在になっていたのか。僕の時間が、どれだけ彼女を中心にして回っていたのか。
そんなの。一目瞭然ではないか。
「錦之宮……!」
僕は拳を握り締める。自分の決意を表すように。
強く、強く。
夜空を眺める彼女の名を呼んだ。
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