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「違うよ、先生」
「違う……?」
「そう」
今日と言う日を、彼女は何よりも楽しんでいる様に見えた。その笑顔を見ていると、心の隅で、もしかすると生きる希望を持ってくれているかもと。
またこうして遊んだりしたいと。これからも生きていたいと。
そう考えてくれているのではないかと、思っていた。死にたいと言う意思を、考えを、もしかすると変えてくれるのではないかと。
そう思っていた。そう願っていた。
僕に足りなかったのは君の意思だ。錦之宮楓。君の心の声なんだ。
僕が君の事を守ると決意できなかったのは。世界を敵に回してもいいと決断しきれなかったのは。
誰よりもまず、君が君自身の死を望んでいたから。だから僕は、君を守る決断が下せなかった。決意が固まらなかった。
でももし、ここで君が考えを変えてくれるのなら。生きたいと、そう願ってくれるのなら。
君がそう言ってくれるのなら。
僕はその願いに、この身を持って応えよう。全力で、応えてみせよう。
君がそう言ってくれれば。そう願ってさえくれれば。
僕は……。
「私ね。今日を過ごしたから、死にたいと思えたんだよ」
「どういう……」
事だ……。
今日を過ごしたから?
彼女にとって今日と言う日は、つまらないものだったのか?
退屈な1日だったのか?
一瞬ではあるが、僕の中に渦巻いた不安。
しかしそれは間違いだと、すぐに気がついた。
彼女の笑みを見て、気がついた。
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