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「十々海先生に抱きしめてもらった時さ、思い留まれた。
この人のいる世界を壊したくないって、そう思えた」
「僕のいる世界……」
「そうだよ。先生がいるから、私は死にたい。死んで、この力を封印したい」
そう言いながら彼女は、両親に向けていた笑みを。親子面接の時に、二人に向けていた優しい笑みを。
僕に向けた。僕の目を見て、彼女は笑った。
錦之宮楓。君は、そんな。君は僕の事を……。
僕と過ごして、僕と話して、僕に拉致されて、僕と遊んで、僕と食事をして。
それで、彼女は思ったのだろうか。感じとったと言うのだろうか。
僕を失いたくないと。僕が自分の力で傷付くのは嫌だと。
両親が自分の念力で傷つくのを恐れたように。
次は僕が君の念力で傷つくのを恐れているのだと。
君はそんな事を気にしているのか。君は僕に対して、そんな感情を……。そんな想いを抱いて。
抱いてくれているとでも……言うのか。
「先生のいる世界を壊したくない。だから先生。私の事を想うのなら」
君はどこまでお人好しなんだ。
君はどこまで自分を大切にしないんだ。
他の誰でもない、僕が君を大切にしたいのに。守り抜きたいのに。
僕が君の幸せを願っているのに。誰よりも強く、願っているのに。
今後の事を思っているのに。君の将来を、まだある未来を、考えているのに。
君はそんな顔で。
笑顔で。優しい顔で。両親に向けていたような、そんな表情で。
僕に頼むのか。僕にすがるのか。
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