十々海レッカ16

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錦之宮楓の要望で、僕たちは砂浜に移動した。綺麗な砂浜だ。サラサラの細かい白砂。 彼女曰く、眠りにつくのなら砂浜の上がいいらしい。何故そうなのかを聞くと、せっかく海まで来たのだからと答えていた。 すくなくともレストランの固い床は嫌だそうだ。夜中に何が通ったか分からない飲食店の床は嫌だそうだ。 いや何も通らないが。あそこは一応高級レストランだから、別段床に何かガサゴソと通る事なんてないが。 オーナーに失礼だろう。 まぁともあれ、その辺りの要望をはっきりと言う辺り、彼女らしいと言えば彼女らしい。 自分の死に場所をはっきりとした口調で指定してくる辺り、錦之宮楓らしい。少なくとも彼女に動揺は見られない。 「具体的にはさ」 彼女は素足で僕の前の砂浜を歩きながら口を開く。 ガラス片なんかがあったら危ないから、サンダルでも何でも履いておくように言ったのだが、彼女はそれを聞き入れようとしなかった。 むしろせっかくの海の砂浜なのに、靴なんか履かないで歩こうよと誘われまでした。断ったが。 足を切っても知らないぞ。今から暗殺をしようとしている僕が言うのも何だけど。 「どうやって私を暗殺するの?」 「あぁ」 そうか。彼女は自分がどうやったら死ねるのか知らないのか。自分の息の根の止め方を知らないのか。 何度も何度も自殺を試みた彼女は、それでも念力に生かされ続けた。 プールに重りを付けて身投げしても、重りごと出されてしまう。首を吊っても勝手に体が浮き出して吊りきれない。 毒を服用しても勝手にその毒を念力が包み込む。体に吸収されないように立ち回る。ビルの下敷きになろうとしても、彼女ではなくビルが崩壊する。ビルが粉々になる。 空高くから飛び降りても地面には届かない。途中で体が持ち上がり、落下の衝撃が吸収される。どこかの映画のヒロインみたいに、ゆっくりと地面に降り立つ。 確かにそんな珍妙な体験をした彼女にとって、暗殺方法はぜひとも聞きたい事なのだろう。1人の自分殺害希望者としては聞きたい事なのだろう。 自分自身を殺そうとして出来なかった。どう足掻いても無理だった。だから自分の殺し方については聞いておきたいのだろう。
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