空腹

あ。

……また、入札入った。

イラッとする。

　終了まであと10分と言うのに、さっきから値段の更新が続いていて、なかなか決着がつかない。

　オークションサイトのこの機能、ホントに余計なお世話だと思う。出品者には有り難いンだろうけれど。

　どこの誰だか知らないけれど、もう諦めてくれないかしら。

後ろでは3歳になる康太が、ソファーの上から飛び降りては奇声を発している。うるさいけれど楽しそうだから放っている。いま、ママ、ママと甘えてこられたら面倒だもの。

　……エルメスのバック、フランス限定の色の今年モデル。

　とても社宅マダムの私にはフランス旅行なんて予定はないけれど良い時代になったもので、こうしてネットで欲しい物を探して買うことなら私にもいくらだってできるのだ。

　いつもこの時期に新作が出るのはわかっているので、誰かが気まぐれに買って後悔してオークションに出すのじゃないかと、前から網を張っていた。

　凄く凄く、欲しくて欲しくて堪らない。

　出品者がどこに住んでる誰なのか判れば、直接交渉に行きたいくらい。

　オークションの値段表示は、８５万９千円。

　……一週間家族３人でフランスに行ったと思ったら、そのくらいの額、すぐに飛んでしまうだろう。

　そう思って、預かっている家計費の中から、家の購入資金のタメに貯めていた貯金を充てる算段をしている。

　夫の慶介の収入からでは月１万から２万の積み立てがせいぜいだけれど、それでもようやく１００万と少し貯まっていた。

　倍貯まったら、本当に、家を買おう。その頭金になるおカネだけれど、でも、毎日パートと育児と家事を頑張ってる私なのだ。この程度のご褒美、当然だ。

　私のパート収入が今、月９万程度。
そこから月５万補てんしたとしても、ほぼ２年あればちゃんと返せる。

　慶介は自分の小遣いさえ確保できていれば、家の事にはほとんど興味がない。

　……このエルメスのバックだって、あのヒトには価値なんかわかりようないのだから、見咎められても、オークションで安くで買ったといえば、それで終わりだろう。

　もう一度、入札のボタンを押す。

自動更新の設定をしているので、５００円づつ、金額があがっていく。

　……信じられない。

何度再入札のボタンを押しても、こちらの入札が通らない。