第二章:喜びと苛立ち

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01.  それはハクが作ってくれた人形だった。  自分が初めて宿った身体。クークラの記憶は、そこから始まっている。  クークラは、片手で持つことが出来る小さな古びた人形を手に、小走りで廊下を渡っていた。  この人形に宿っていた頃は、あまり難しいことを考えられなかった。喋れもしなかった。ただ、目の前にあるものに反応して動いていただけだったような気がする。  それでもハクは、そんな自分を愛してくれたし、よく注意して見ていてくれたのは覚えている。  クークラは、魔術部屋へと戻り、施術結界の内側に入っていった。  結界は周りを縄で囲まれ聖別された、部屋の半分くらいを占める比較的大きなスペースで、四隅にキキさんが作った符が貼られている。  大気に満ちる魂がこの符に興味を持って近づき、かつ縄の内側からは出にくくなるため、一時的にその密度が濃くなる効果がある。  結界の中央に置かれた木製の祭壇の上に人形を置き、クークラはそれと向かい合った。  目をつむり、人形と、大気に満ちる魂に感覚を集中させる。  光を介して見ているいつもの世界とは別の、空気と、その中に遍く満ちているエネルギーを感覚で捉える。  それは、光の世界とは常に重なりあいながら、眼には見えていなかった世界。  闇に身を置いて初めて感じることが出来る、別の世界。  同じ空間に同時に存在しながら、互いに干渉しない、光の世界と魂の世界。  ただ何らかの波長が合った地点でのみ、二つの世界はそれぞれに影響を及ぼす。  光の世界の物質が、魂の世界の波動を惹きつける。魂の世界の波動が、光の世界の物質に宿る。  二つの波長が合った場所で、身体と魂を持った命が生まれる。
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