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02.
「……まだ勝てないのか……残念だ……」
礼をし、鍛錬を終えた後。
野太い感じの声でそう言いながら鎧に宿ったクークラは、トラックの脇にあるフック付きの柱に自分の首を後ろから引っ掛けた。完全に固定されると、次の瞬間には鎧から精気が消え、手脚がガシャリと音を立てて力なくたれ下がった。
そして隣の椅子に座っている人形が、まるで眠りから醒めるかのように眼を開けた。
「まだまだ鍛錬が足りないかなぁ」
「冒険者時代から練習と実践を重ねた技でございます。そうそう追い抜かれるわけにはまいりません」
キキさんは涼し気な表情で答えたが、実のところ少しだけヒヤヒヤしていた。
それほどに、クークラの突きは鋭い。
だが、弟子に簡単に遅れをとる訳にはいかない。キキさんは意外と負けず嫌いなのである。
それにしても。
泊まり込みシフトで、朝仕事を始める前の時間を活用するために始めた棒術の鍛錬だが、クークラの動きは日を追うごとに鋭くなっていく。
キキさんは思う。
フェイントなどの駆け引きをしてこないので、今年はまだ負ける気はしない。来年もまぁ大丈夫だろう、多分。
しかし、再来年あたりにはもう、抑えきれなくなるのではないだろうか。
戦闘におけるカンの良さが異常に良いのだ。
勇者に託されたというが、この子の生まれは謎なんだよな……と、キキさんは改めて思った。
どんなものにも乗り移れるという特性……それも、巨大な瓦礫を難なく片付けるパワーを発揮する泥人形をこともなげに動かすことなどを考えても、およそ普通の魔導生物ではないだろうし、それは戦闘能力の潜在的な高さと関係があるに違いない。
時代からして、氷の種属との戦争のために生み出されたと考えても、決して不自然ではないのだ。
国教会によって無為の存在となされているハクに、勇者がこの子を預けたのは、不正解ではなかったと、キキさんは思った。
少なくとも砦跡に居る限り、クークラの戦闘能力が日の目を見ることはない。生態や能力ゆえの不幸を招くことも皆無だ。
陽が少し高くなった。
これからまた一日の仕事が始まる。棒術の鍛錬は、あくまで仕事前の休憩時間を活用したものである。
「さて、では今日はカビの予防をいたしましょうか。これからジメジメした季節に入っていきますので」
「あー……あれかぁ。薬品臭いし手間がかかるから、ボクあれ苦手なんだよなぁ……」
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