第一章:ある夏の日

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03.  クークラに仕事を手伝ってもらい、それで浮いた時間を使ってキキさんが魔術の勉強を見る。その関係が始まってから、これもまた随分と時がたった。  クークラの魔術への興味は本物で、飲み込みも覚えも悪く無い。だが、クークラが使いたいと願っているアニメートはかなり高度な術であり、まだそれを使えるところまでは至っていない。  とは言え、クークラは本能的に「大気に満ちる魂」の動きを感じ取っている。感覚さえ掴めば、使いこなすに至るまでは早いのではないかとキキさんは考えていた。  術の勉強を見るための専用の部屋も、ハクを含めた三人で設営した。  持ち込んだ書籍を置く書棚、向い合って座るための机。筆記用具。実習に使うための様々な物品、素材。それらを加工するための刃物や工具。比較的広く取った施術スペース。  スヴェシが来る時にはただの書見部屋のように設定し直すのだが、逆にそのお陰で、毎年クークラの成長に沿った形にカスタマイズできている。  今はともかく実践に主眼を置き、施術スペースを充実させている。そこは円形に注連縄を張って聖別し、中央に木の祭壇が置かれ、大気に満ちる魂が濃くなるように設計されていた。  一日の仕事を終え、作業日誌を書いてから、キキさんは魔術部屋へ来た。  先に入っていたクークラは、キキさんが入室すると形式張って椅子から立ち上がり、礼をした。キキさんは手を軽くあげてそれを受ける。 「ありがとうございます。今日はちょっとアニメート……というか、大気に満ちる魂と、素材の相性に関して聞きたいんですけど」  クークラの希望を聞いて、キキさんは、懐かしさを感じた。  自分がまだ未熟で、皆の役に立とうと思って勉強を始めた魔術がなかなか身につかず焦っていた頃。  同じことをマスターに聞いたのを思い出した。
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