第一章:ある夏の日

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「大気に満ちる魂と、それを宿らせる素材に関して、確かに相性はございます。もっとも極端な例は水晶ですね。純粋な水晶の結晶に宿ると、大きな魂は眠ったような状態に陥ります。おっと、それはなぜかと聞くのは無しですよ。わたくしも分かりませんし、それに関しての研究論文も読んだことはございません」 「じゃぁ、練習として選ぶべき素材というのもあるの?」 「ある程度は。とは言え、素材による宿りやすさの違いよりも、大きな要素が存在しております」 「それは?」 「思い入れでございます。人の思い入れを強く受けた素材……いえ、思い入れを強く受けたモノほど、魂が篭もりやすくなります。自然に生まれる付喪神というものが、おしなべて古くから使われている器物であるのは、それだけ思い入れを受けた物品であるためだと考えられています」 「思い入れ……」 「アニメートに関しましては、術者の思い入れの強い物ほど、術をかけやすいという傾向がございます。わたくしの場合は、使い慣れた掃除道具に対して術を掛けるのが得意であるということにもなります」 「じゃぁボクも、何か思い入れのある道具を使えば」 「そうですね、最初にアニメートを成功させるには良い方法だと思います。以前にも申し上げましたが、魔術は技術でもあります。まず一回成功させることを覚えれば、その後に別の器物に応用するのは簡単になるかもしれません」 「あ、それ。ハクは、逆上がりみたいなもの? って言ってたけど」 「言い得て妙かと。……別の例えとしては、棒術の演舞のようなものでしょうか。動きを身体で覚えてしまえば、後は簡単に、かつ洗練されていくと言う意味では」 「うーんじゃぁ、何かボクにとって大切なもので試してみよう。……なんにしようか……」 「あまり気負いませんよう。学び始めてまだ数年でございます。出来なくて当然。焦ってもいいことはありませんので」 「分かりました。とりあえず、今日は自分でいろいろと試してみようと思います」 「ではわたくしは部屋に戻りますので、わからないことがありましたら」 「はい。その時にはまた聞きにいきます。ありがとうございました」
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