第一章:ある夏の日

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 今思うと、ルサはルサで負けず嫌いの自分を叱咤しようとしたのだと理解できる。憤りで、大切なブラシを失ったショックを忘れられたんだった。  ルサを始めとした四人の仲間たちとは、同じマスターを慕い、共に冒険をし、時には大きな喧嘩もした。  仲直りに骨を折ったことも思い出した。  あの子たちとはマスターが旅立ってから会っていない。  今頃、一体どこをうろついているのやら。  キキさんは、懐かしい顔を、一つ一つ頭に思い浮かべていた。  ふと、キキさんは思った。  私はハクやクークラにとって、私の中でのマスターや仲間たちのような存在に、家族のような存在になりたいのだろうか。  それは自分でもよくわからない。  ただ、かつての仲間たちに感じていたような愛おしさはある。  いつか来るであろうクークラがアニメートを成功させる時。  私はハクと共に、それを褒めてあげたい。そしてハクの次にでいいから、頭を撫でてあげたい。  キキさんはそう思った。  一方その頃。  クークラは、自分の部屋の行李の中に大切にしまってあった一つの人形を手に取っていた。  初めて自分が乗り移ったモノ。  ハクが手ずから作ってくれた最初の人形。  決していい出来とは言えない。  丁寧に作ってはあるが、所詮は素人の手によるもので、可愛いと言える造形ではないし、古びてもいる。  それでも。  これは自分にとっての宝物だ。  思い入れはある。初めてアニメートで動かすとするならば、これほどふさわしい物は無いかもしれない。  魔術部屋に戻り、クークラは今まで何度も失敗した術式を、再び行い始めた。
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