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◇
「あ、気付いたのか?」
目を覚ますと、寮の部屋の自分のベッドの中だった。
オレに声をかけてきた相手を見る。
こいつは……。
確か、米田(よねだ)だ。
なんとなく警戒して周りを見渡す。
何の変わりもなく、せまくボロい寮の部屋だ。
「急に倒れるからビックリしたんだよ?」
「あ…わるい…。」
そう答えたけど、あれ…?
オレが倒れたとき、一人じゃなかったっけ?
「なんで…。」
「漏らしてたから、ベッドに寝かせる前にちゃんと着替えさせたよ。」
「ぉっっっぉぇええっ!?」
自分の体を確認すると、何故かポロシャツに短パンという卓球の練習着になっていた。
「え…なんでこの格好…?」
「全裸が良かったかい?」
「あ…いや…。てか、オレ、漏らしてた?」
「ああ、ぐっしょりと黄色い液体に腰のあたりをひたして床に仰臥していたよ。」
「え?ぎょ…ぎょうが?」
米田が両手を広げて少し後ろに反るような動きをしたから、ギョウガってのはたぶん仰向けのことなんだろう。
現状を整理しようとするのに、何から考えていいのかよくわからない。
「オレ…あ………。」
ぶっ倒れる前の光景が脳裏をよぎった。
「あっっ!あああああっっっ!米だよっっ!コメに虫がついてたんだっっっ!」
窓を指差して必死で叫んだ。
「へぇ?米の虫除けには唐辛子が効くというけど、今は市販の虫除けがあるから買ってみたらどうかな?」
「ちが、ちが、デカくてぶよぶよしてて、デカイんだよ。で、透けてて、デカイんだ!」
「大きな虫が出て怖かったのかい?」
「ちが!ほらっ!そこ!」
妙に冷静な米田の腕を引っ掴んで、窓際に押しやった。
オレはもう見たくないから、米田の背中にぎゅっと隠れる。
「虫っっっ!まだいる?」
「うーん、小さな虫はいっぱいいるけど…ねえ、もしかしてキミが虫って言ってるのは……。」
米田が両手の指でフレームのように四角を描いた。
そこにビョン!と小さな音がして、どこかの風景が映し出される。
「きっと、これのことだよね?」
そう言った米田の手のフレーム中から、さっきのプヨンプヨンが小さく顔をのぞかせた。
「ひぐっっっっっっっ。」
オレはみっともなく喉をならして、その場にへたり込んだ。
なんだ…これ…。
ああ、また意識を手放したい。
けど、意識を保ったまま、また漏らしそうだ。
コワイ…。
てか、なんなんだ。なんだ…なんなんなんだ。
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