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米田がなんか言ってる。
音としては聞こえてるし頭に入ってきてる感じはするのに、全然聞こえてる気がしない。
何か言われて、オレが必死で頷く。
「ワカッタ、ちゃんと状況を理解した。」
初めて英語の授業でアイキャンスピークイングリッシュと言ったときのように、棒読みのセリフが口からこぼれる。
それに満足そうに米田が頷いた。
「で、アンタは…。」
「アンタなんて言わないでよ。僕は、キミの『先輩』だよ。」
米田が柔らかく綺麗な笑顔でニコリと微笑む。
「………せん…ぱい。」
「さあ、僕の名前を呼んでみて。」
「米田…せんぱい?」
「はい、良くできました。ああ、そうだ、まだキミの名前を聞いてなかったね。」
「オレ…の名前は…。溝口啓介(みぞくちけいすけ)。」
「そうか、啓介。今日からよろしくね。」
強い力でがしっと腕をつかまれ、そのままぐっとハグをされた。
そして、ちょっとオレの顔を見つめると、こめかみに吸い付くようなキスをした。
そのまるで何かが流し込まれるようなキスで、オレの混乱はピタッと治まり冷静を取り戻した。
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