シナナイ ミライ

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ジリリリリリ…… 施設内に鳴り響くけたたましい報知器の音。 音の発信源は、施設内病棟3階の開かずの間。 そこは臨床実験対象者が足を踏み入れてはいけない場所だった。 今、ヒカリの目の前で、開かずの間の禁断の扉が開かれている。前方には施設内のスタッフが数人いて、事件の成り行きを見守っていた。 いつもは能面のようににこりともしないスタッフが、流石にこの時ばかりは顔面蒼白だ。 開かずの間の先、そこに広がる光景は何の他愛もない病室だった。 個室には十分過ぎる広さの部屋にベッドがぽつんと置かれ、ベッド脇には脈拍を映すモニターの画面と人工呼吸器が、たくさんのチューブを携えていた。 ベッドの上に寝ているのが誰なのかはヒカリには解らなかったが、女の人だった。眠る様に絶命していた。 死んでいる。そう思ったのは、脈拍のモニターが0をずっと示していたからだ。それに、その女の人の胸元あたりに、ナイフが突き刺さっている。 「リノ……」 ヒカリは思わず、先程からベッドの端に座っている少年の名を呟いた。リノは彼女の呼びかけに気付いたのか、こちらを見、にやりと怪し気な笑みを浮かべ、左手に握りしめたナイフの柄を一気に引き抜いた。真っ白な掛け布団から鮮血のシミがゆっくりと広がって行く。 右手にはいつもの様にクマのぬいぐるみをしっかりと抱いている。 どうして?  ヒカリはリノを見つめたまま、息を飲んだ。
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