シナナイ ミライ

7/18
前へ
/18ページ
次へ
「リノ・スミス?」 施設での生活も三ヵ月を過ぎると、実験対象者達の絆も深まってくる。この日、ヒカリは隣室のアラキダさんとお風呂を共にしていた。 アラキダさんは40代の主婦で、面倒見が良く、皆のお母さん的存在だ。ヒカリと同じ歳の娘さんがいるらしく、彼女を特別気に掛けてくれているのだ。 「どっかで見たことある顔だなって思ってて、インターネットで調べてみたのよ。ほら、あのクマのぬいぐるみをいつも持ってる、いつも一人でいる薄気味悪い子」 「ホンダリノの事ですか?」 確か彼もヒカリと同じ17歳だった。何度か授業で一緒になったことがある位で、話したことはまだ一度もなかった。 「そう、あの子。今は母親の姓を名乗ってるみたいね」 アラキダさんは浴槽に浸かりながら、眉間に皺を寄せる。 「今から7年前かしら?10歳の男の子がアメリカの有名大学に入学したってニュース、聞いたことないかしら?当時は結構騒がれてたのよ。天才少年現るって。なんだか、難しい数学の計算を簡単に解いたらしくてね。日本人とアメリカ人のハーフで顔立ちもかわいらしかったから」 ヒカリは頭の中の記憶を辿ってみる。そんな少年がいたような記憶があるが、自身も子供だったので、当時は興味がなかったのか、よく覚えていなかった。 「一時は日本のメディアとか、バラエティー番組にも出てたのよ。大人顔負けの話しっぷりで、生意気な印象だったわ。もてはやされて時はまだ良かったのよ。それから転落人生が待ってるなんて思ってないんだからね」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加