シナナイ ミライ

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浴室から出た途端、ヒカリは思わず息を飲んだ。壁に体重を預けるようにして、リノが立っていたからだ。 そのまま無視して彼の前を通り過ぎようとすると、「内緒話はもっと周りの状況を確認してするべきだよね。ここじゃ誰が聞いててもおかしくないんだからさ」とぼそりと呟いた。 「さっきの話、聞いてたの?」 ヒカリは立ち止まり、リノを振り返った。茶色掛かった髪は、風呂上がりなのか濡れていて、前髪が目元に掛かる位伸びきっている。 肌が病的に蒼白く、右手の親指を噛み、ぬいぐるみを左脇に抱えている。背は高いが痩せぎすで、配布された丸首のスウェットから、骨ばった首筋が覗いていた。 「ここの浴室は上が繋がってる。知らなかった?あんなデカイ声で喋ってたら、嫌でも男湯に聞こえてくる。でも、君に関しては予想外の反応だ。さっきのオバサンに同じ事言ったら、血相変えて逃げてったし。サエキヒカリ、やっぱり君は面白い」 もしかして今、笑った?リノの口の端が引き攣るように上がったのを、ヒカリは見逃さなかった。 「丁度いい機会だ。僕は君と一度じっくりと話してみたいって思ってたんだ。今から僕の部屋に来れる?」 そう言ってリノは初めて顔を上げて、ヒカリと視線を合わせた。アラキダさんの言っていた通りのハーフ顔、幼い頃の面影を残した彼の瞳は確かに可愛らしかった。
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