勝てないやつ等のたまり場

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 とは言っても、此方の部屋にやってくるお母さんの顔は鬼の様な形相です。だ、大丈夫でしょうか……。 「武。何なの、その虫は。ゴキブリじゃないの?」 「ああそうだよ。だったら何だよ」 「何だよじゃありません。そんなの今すぐ捨てなさい」  お母さんの言葉に、僕達はショックを受けました。武くんは眉をつり上げてお母さんの方を向きました。 「捨てるって何だよ! 捨てるわけ無いだろ、コイツ等は俺の大事な家族なんだ!!」 「ゴキブリが家族って何なのよ、頭おかしいんじゃないの!?」 「コイツ等といれるのなら、それでも良いよ!! だから……母さん頼む」  なんと武くんは、地面に顔を伏し、土下座をしました。そんな、僕達の為にこんなことまで……涙を流したいくらいです。お母さんの表情は、怒りから悲しみに変わっていくようでした。そして、地面に膝を付いて、土下座した武くんの頭を撫でました。その姿があまりにも辛い。僕達がゴキブリで無ければ……僕達は悲しくなりました。 「……うそよ」 「え?」  え? うそ? 武くんも僕達も、お母さんの方を見ました。すると、今度は僕達の方を見て、お母さんもニコッと笑いました。それともこれは、錯覚でしょうか? そう考えていると、お母さんがどんどん僕達に近づいてきます。 「こんにちは。こんな奴だけど、宜しくしてやってね」 『え……あ……は、はい』  聞こえてるはずがないじゃないかと思いながら、僕は答えた。他のゴキブリ達も答えると、お母さんは嬉しそうな顔をした。 「みんな元気で、優しそうな子たちじゃ無い」 「母さん、まさか母さんも聞こえるのか?」  武くんが尋ねると、お母さんは頷きました。 「ええ。私も声が聞こえるし、もちろんゴキブリが大好きよ。ただ、昔小さい時にこっそり飼ってた時、親に見つかって潰されてしまったことがあってね。それがトラウマで、今までゴキブリの出ない北海道に住んで来たのよ」  そっか。事情を知らない人にはただのゴキブリだけど、きっとその時のお母さんにとっては、そのゴキブリも友達同然だったはずです。それを、親に殺されてしまう。そんなショッキングな出来事……想像するのも辛いです。武くんも悲しそうな顔をしていると、お母さんは気遣う様に笑いました。 「でも、今は良い時代ね。こうしてケースで飼えるもの。これなら、良いな……ねぇ、私とも仲良くして頂けませんか?」
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