本当の幸せ

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月日は流れ、俺は太陽と小さな怪獣に振り回されていた。 家の中は賑やかどころではない。一途だった妻は、俺をほったらかしにするくせに、家来のようにこき使った。 騒音のような泣き声に耳を塞ぎ、キャッキャと笑う表情に目尻がさがる。 サチコは俺のことを【パパ】と呼ぶようになった。 夜を求めると『疲れてるからやめて』キッパリと拒否される。女は母になるとこうも変わってしまうものなのか。 サチコの恋心が別の形で息子にしかそそがれなくなったのが、寂しかった。妊娠中から今までも、他の女にはなびかないし、たまに生まれる性欲はアダルト動画で処理をした。 だが時々パンドラの箱を開けたくなる。 物置部屋の誘惑に流されて扉を開くと、悪寒を感じた。振り向くと、息子をあやしながらサチコが睨んでいた。 「使わない使わない。隠れて使ってもないよ」 『ほんとに?』妻の目がそう疑っている。 「本当だよ」 ドアを閉めて両手を差し出した。抱きかかえる俺のライバルは、まだとても小さく驚くほどに軽い。 この命が、俺とサチコを一生繋げてくれる。それが俺たちの望んでいた本物の愛の形だ。
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