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「今夜はもう看板。あなたがしっかり払ってね。」
彼は笑いながら頷いた。
「ああ、いいよ。つまみに昔話でもしようか。」
「あら、素敵ね。聞きたいわ、あなたのお話。」
「じゃあ、何を話そうか。」
その言葉に彼女は少し首をかしげ、そして無邪気に手を打った。
「そうね、あなたの今思い浮かんだ話をしてよ。」
その言葉に彼は頭をかいた。困った時の彼の癖のようだ。
「思い浮かんだ、話か。」
彼は息を整えると、遠い目をして話を始めた。
「あれは、僕が少し若いころだった。あの頃の僕は、傲慢だった。全てが思い通りになるとさえ思っていた。愛した人さえ、ゲームの登場人物でしかなかった。気づけば、周りには誰もいなくなっていた。あの頃僕は、人間ではなかった。」
その言葉に彼女は頷いた。
「孤独に耐えきれずに私の所へ来たの?あなたらしい。ねぇ、覚えている?子供の頃の事。」
彼はその言葉に首をかしげた。いつの頃だろうと記憶を辿っている顔だった。
「あれは、私とあなたが初めて二人でピクニックへ行った日の事だったわ。」
覚えている?と彼女は彼を見つめた。彼は、ああ、と頷いた。
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