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「あの時、私はお花畑に夢中だった。お気に入りの麦わら帽子をかぶっていたわ。ピンクのリボンがついていたわ」
「そうだったかな」
「そうだったのよ。それで、その時に風が吹いて、私の帽子が飛ばされたの。その時、後ろからついてきていたあなたが、その帽子をしっかりと掴んでくれたの。」
「ああ、覚えているよ。確か君がピーピー泣いていたっけ。」
「泣いてないわよ、失礼ねぇ。」
彼女は悪態をついて、子供のように笑った。
「あなた、あの時すごく素敵な目をしていたわ。純粋で優しくて、まるで今のあなたのよう。」
彼は優しくほほ笑むと、じっと彼女の目をのぞきこんだ。
「ねぇ、ニキ。僕はもうダメなんだ、だから君に逢いに来たんだ。だって君は優しい人だから。」
そっと重ねられた手をニキは振り払わなかった。
二人が離れ離れになったあの日から、いつの日かそんな日が来ると、信じて疑わなかったのだから。
二人は何も言わない。ただ、ゆっくりと時間だけがながれていく。
二人には、それで十分だった。
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