序ノ口

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『―…』 頭が真っ白になるのも久しぶりで…いつの間にか、唇を押さえてた指も震えてるって気付いたアタシは、無理矢理それを下ろした。 『…円香、に無理矢理…食べさせられたので…味は…分かりません…』 どうして…まだ、こんなに声が震えてしまうんだろう。 「…」 一乗寺が無言で差し出したスマホを、受け取りたいのに。 手が震えてるとか、もうバレてるのも分かってるのに手が… 「胸ポケットに入れてやってもいいが胸に当たって文句―」 『返せ』 「おぉ速ぇ」 迅速に奪い返したスマホを、お尻のポケットに戻す。 円香め、ついでに鞄も買えば… あぁ…そうだった。 『…今回は…それなりに報酬もあったし、甘んじて許します』 「服の事はお気になさらず」 ……うぉい! この服…上杉さんの金かい! 円香が目を逸らす。 『有難うございます。ですが…お金は必ずお返し致します』 「…そう…ですか…仕方ない。高杉さんにはサクランボの味が分からなかったとの事。それは残念なので、お詫びの代わりにサクランボ…をお持ち帰り―」 『結構です』 「そう仰らず。今年から当ホテルへ専属契約して頂けたばかりのサクランボです。ココでしか…お食べになれませんよ?あんなに美味しい…」 『ッ…結構です』 「僕は君に。食べて欲しいからココへ呼んだ」 『!』 「…今だけ【限定】ですよ?」 『頂きましょう!』 …ハッ! しまっ―… 「なら行こうぜ」 ガッと二の腕を掴まれたアタシは、反応にかなり時間が掛かった。 『ちょッ…何が』 気付いた時、既に一乗寺に引きずられてたから、向こうの方で円香に手を振られてる状態。 会場に居る人達が何事かと、そりゃ当然、見てくるよ! 避けないで救出を! 『離してよッ』 「やだね。サクランボが死ぬ程食いてぇんだろ?」 『死ぬ程は食わん!』 「分っかんねぇけど、そのサクランボを使ったスイーツとかも…タルトだかもあるぞ」 『…マジ?』 「ふ!マジ。上杉が用意周到…いや、スイーツフェアだかで作らせ…カフェ【限定】だぜ?」 限定!サクランボタルト… 破壊級に美味しそうな響きッ! 『カフェ…行くから離して』 会場出口に…鮫島のオジサン! 「早くも成立!?お受けになったんですね高杉様!結婚式も是非我がホテルで―」 『なんにもウケないって!』
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