序ノ口

5/12
前へ
/12ページ
次へ
着替えて…フロントへジャージ預けて上空へ… ホテルの会場に上がれば、受付に人はまばら。 『ほとんど入ったよね』 円香に貰った服は、アタシ好みのパンツとシャツで。 靴まであったからそつがない。 『サンダルもバレた』 ペロッと出した舌をしまった時 「こんにちは」 『こんにちは』 声を掛けて来た男へ向けた顔は既に、営業スマイルだった。 決して、婚活スマイルじゃなく営業スマイル。 ここ大事! 「ご参加で?」 『友人と。五円ですし』 「ハハ。成る程。食べ放題ですからね」 『ご馳走になります』 「遠慮なく」 遠慮? するか。 男性が数万の参加費払うから、一応のお礼よ。 『…』 つか… 何で隣キープしてんのコイツ チャージ料…貰うぞと、横顔を睨んだ。 …ふん。 円香なら飛び掛かりそうな男。 アタシは顔に― 「どんなお相手を?」 『年上の方を』 「なら僕も―」 『60代の方が好みです』 「………ふッ」 『…』 ふッ…? 「あ!そこのお二方!参加される方で!?」 ちっちゃい小太りのオジサンがデベデベ走って来て 「急いで!お二人が最後です!皆さん待ってます~」 隣の男と一緒に背中を押され、受付へ連行された。 『遅れてすみません』 「申し訳ない」 「いやいや!え~っと…では、綺麗な女性が…一乗寺桜さん。素敵な男性が…高杉上総さん。で、よろし―」 『「よろしくねぇわ眼鏡」』 「…え?眼鏡?空耳?」 ずり落ちた眼鏡を上げたオジサンに、微笑んだ。 『私がタカスギカズサですが』 「僕がイチジョウジ…オウ…。桜でオウ、ですが」 何か文句あっか? と、ばかりに見下ろした途端、ちっちゃいオジサンはみるみるちっちゃくなっちゃった。 『あ…』 「も!申し訳―」 『お気になさらず!上総なんて男みたいですし慣れてますから…すみません』 「そ、そんな…」 「僕も失礼を。ついつい」 「いやいや!誠に申し訳ございませんでした!」 『いいえ。では…よろしくお願いします。頑張って下さいね…鮫島さん』 「ッ…はい!」 オジサンの胸にあった名札には…良い一時をの文字も見えて。 つまんない事で苛ッとした自分を恥じた。 遅れたアタシも悪いし、一生懸命なオジサンって何か…応援したくなる。 良い一時を…かぁ 「高杉さん」 無理っぽい。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加